v-22

『V-22(オスプレイ)』はエンジンローターの角度を変えることでヘリコプターのように垂直上昇ができ、上昇後はローター軸を前方に向けて普通のターボプロップ機として飛行することができる「ティルトローター機」として始めて実用化された機体です。従来の固定翼機と回転翼機のパイロット免許区分と概念を覆す革新的な機体と言えますが、開発の難しさから初期に試験中に4度機体に起因する死亡事故を起こしたことで「未亡人製造機」と揶揄され安全性に不安のある機体という印象が強くなってしまった機体です。
V-22オスプレイ 増補版 (世界の名機シリーズ)V-22オスプレイ 増補版 (世界の名機シリーズ)
青木謙知

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■長年開発が続けられてきたティルトローター、ティルトウイング機
米軍はヘリコプターの利点である垂直離着陸・ホバリングができ、通常の固定翼機のように高速移動かつ長い航続距離が持つ垂直離着陸機に古くから注目し、1955年台以降研究開発を行っています。開発が進むにつれ主翼をエンジンポッドごと機体に対して傾ける「ティルトウイング」とローターのみ傾ける「ティルトローター」に分かれ米各航空メーカーが開発に取り組み、ベル社の「XV-3」ヒラー・エアクラフト社「X-18」などが開発されました。いずれの機体もVTOL機に関する多くの知見をもたらしたものの、技術的な困難に直面するか、高額な開発コスト、果ては墜落事故を起こし開発中止となったものが大多数で、ティルトローター機の開発の難しさが目立つ結果となりました。しかし得られた膨大なデータと培われた技術は後のV-22の開発に活かされており実用ティルトローター機はようやく陽の目を見ることになります。


■4軍共同統合先進垂直航空機計画(JVX)
戦略上非常に有効とされるティルトローター機ですが当時開発は試行錯誤を繰り返している段階で、他に優れた固定翼機や回転翼機が数多く開発される中、莫大な予算をつぎ込みながらも一向に実現しないティルトローター機への関心は下火となっていました。しかし、1979年に発生したイランアメリカ大使館事件で人質となった大使館員及びその家族ら53名を救出する『イーグルクロー作戦』の失敗が契機となり、これまで以上にティルトローター機実現に向けた計画が立案され、陸・海・空・海兵隊4軍共同の統合先進垂直航空機(JVX開発計画)が1982年に発足します。プロジェクトにはティルトローターの実験機を以前にも開発し、多くの知見と技術を持つベル社と、大型ヘリを開発し資金力のあるボーイング・バートル社がパートナーシップを結び、1985年ベルXV-15をベースとする設計案が承認され開発がスタートします。

■V-22プロトタイプ


■先進的な最新テクノロジーと安全対策
V-22には最先端技術と安全対策が盛り込まれ、操縦系統とローターシステムにはフライ・バイ・ワイヤを装備、独立した2台のコンピューターで常時飛行システムを監視しています。コクピットは夜間における視界強化のため赤外線と画像増強機能を統合的に組み合わせたHUDを標準搭載。直系11.58mのプロップローターには、エラストメリック・ベアリングと動力折り畳み機構を持ったテーパー付きの3枚ブレードを使用し左右2個のローターを結合シャフトで連結しています。これにより一方のエンジンが停止した場合にはエンジン1基でも両方のプロップローターを回転させることができるようになっています。搭載するエンジンはプラット&ホイットニー社のPW3005及びゼネラル・エレクトリック社のGE27を避け、実績のあるT56ターボプロップを基にしたアリソン製T406-AD400が選定されています。また各エンジンにはFADEC(完全自動デジタル式エンジン制御装置)が装備されアナログ方式によるバックアップ機能が付与されています。開発は電子機器や胴体部分をボーイング・バートルが、ナセルや駆動系を含む主翼部分と尾翼部分をベルが担当しています。

■V-22のコクピット


■開発中に多発した事故と安全性への懸念
1986年5月2日には全規模開発が認められ、6機のMV-22試作機が製造され各種テストに使用されてきましたが試験飛行中2回、重大な事故を起こしています。1991年6月11日、試作5号機が飛行制御システムの配線ミスにより離陸後制御不能になり、ナセルとローターが接地し機体が転覆する事故が発生。パイロットは軽傷で済みましたが、機体は修復不可能と判断され破棄されています。1992年7月には試作4号機が着陸直前に右エンジンナセルから出火し墜落。乗っていた海兵隊員3名と民間人技術者4名の計7名全員が死亡する事故が起き、開発計画に深刻な影響を与えることとなります。その後も低率初期生産機による試験は行われますが2000年に死亡事故を連続で起こしたことで一時は計画中止寸前まで追い込まれました。開発段階で事故が多発したためティルトローターの特性を原因として根本的に安全性を指摘する起因となっていますが、米軍で徹底的に事故原因を調査し改修した量産機を本格運用しはじめてからは重大事故は発生していません。アフガニスタンで起きた墜落事故は砂漠特有のダウンウォッシュによるもので、これはどの回転翼機でも起こりえる問題です。

■主翼を折りたたんだ状態


■ティルトローターの新しい時代が到来
V-22が実用化されたことにより今後ティルトローター機のように垂直飛行と高速・長航続の巡航飛行ができる航空機開発は加速しています。欧州でもティルトローター構想が動いており、ベル社では既に4発大型ティルトローター機開発計画を出し動き出しています。民間向けティルトローター機(BA609)としてベル・ヘリコプター社と伊アグスタ・ウェストランド社が共同開発している機体が市場に出れば一般人でもティルトローター機に触れる機会が増えヘリコプターに代わる一般的な乗り物になっていくと考えられています。最大のメリットとしては本土から離れた離島で空港建設が困難な場所でもヘリポートがあれば運用でき、新たな航路を作ることができるようになります。



原型初飛行1989年3月19日
全長17.47m
全幅25.54m
全高 6.63m
乗員2名
エンジンロールス・ロイスアリソン社製T406×2
最大速度565km/h
最大離陸重量約27t
航続距離約1,600km
生産数量産中
海兵隊用:MV-22B(360機)
海軍用:HV-22B(48機)
空軍用:CV-22B(50機)