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MiG1.44は、ソ連空軍向けにミコヤン・グレヴィッチ(MiG)設計局が開発した、第5世代ジェット戦闘機にあたる1.42の概念実証機。1.44という名称はロシア空軍に正式採用されていない単なる設計局の試作機であることを示しています。1.44は資金不足で飛行もままならず、公表されている情報も非常に少ない機体です。ロシア空軍ではスホーイの開発するPAK FA(T-50)に開発資金を集中させる方針であり、より実戦向きの1.42を開発できる可能性はありません。
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青木 謙知

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■アメリカ空軍のATF(F-22)に対抗する多機能前線戦闘機(MFI)構想
多機能前線戦闘機(MFI)は1980年代に旧ソ連空軍によって計画されたI-90計画の一端を担う次世代戦術戦闘機の開発計画で第4世代ジェット戦闘機であるMiG-29Su-27の後継機として提案されました。機体コンセプトは2年に及ぶ研究の末、「高機動」、「スーパークルーズ」、「ステルス性能」「優れた汎用性」「良好な整備性」の5つの性能要求を各設計局に提示。要求内容はアメリカ空軍のATF計画を意識した影響が見られます。



■MiG-31に匹敵する大型の機体
1980年代半ばMFIによって提案された要求案を元にミグ、スホーイ、ヤコヴレフの3設計局による競争設計となります。ヤコヴレフの設計案は試作にまでいたりませんでしたが、スホーイは自費で前進翼のS-37を開発。ミグ設計局は1.42の技術デモンストレーターである1.44の開発を始めます。1.42の形態は1980年代に盛んに取り入れられたクローズ・カプルド・カナードを採用しています。翼面積は90㎡以上とF/A-18の2倍もあり、同年代のラファールやタイフーンと比べて一回り大型で総重量35t級となるパワフルな機体となっています。エンジンはサトゥルン(リューリカ)AL-41Fターボファンエンジンを2基を装備し最大速度はマッハ2.6にも達し、マッハ1.6前後でスーパークルーズが可能とされています。



■プラズマ・ステルスの可能性
ミグ設計局は1.44をステルス機であると含みを持たせた発言をしており、その根拠と噂されるのが「プラズマ・ステルス」を搭載している為であるとされています。プラズマステルスは「機体に当たったレーダー波を消散させ、レーダーに映らないようにする」と言うシステムで、一説にはレーダー波照射断面積(RCS)が大幅に(1/100程度までに)削減できるとされています。1.44の機体形状はF-22などアメリカのステルス機と比べてお世辞にも高いステルス性能を備えているとは感じられず、また、プラズマステルスについても開発は噂されるも不明な点が多く一部では「存在そのものが無い」と言う不特定情報もあるため信憑性は低いと考えられています。


野ざらしに放置される1.44

■ソ連崩壊により急速に悪化する開発状況
完成前の1991年12月25日にソ連が崩壊すると開発資金は途絶え急速に開発状況は悪化していきます。スホーイはSu-27シリーズの輸出が順調でS-37の開発資金を出せるのとは対照的にミグ設計局は慢性的な資金不足で窮地に陥りました。それでもミグ設計局は細々と開発を進め1995年頃には、ほぼ機体が完成させています。しかしテスト飛行の費用までは捻出できず、1998年にはとりあえず写真を公開、翌年に地上滑走試験をを行うなど資金繰りに苦しむ自転車操業的な状態でした。機体完成から5年後のなんとか燃料代を工面し2000年2月29日にモスクワ郊外のジュコーフスキー飛行場で1.44は初飛行を成功させています。後の1.42は同体内に兵器倉を設ける構想で空力的にも別機体となる予定でしたが、株式会社となったミグではロシア空軍に採用される可能性が低い1.42よりも輸出も見込めるMiG-35の方に開発を集中しているようです。

原型初飛行2000年2月29日
全長22.83m
全幅17.03m
全高 5.72m
乗員1名
エンジンサトゥルンAL-41Fターボファンエンジン×2
最大速度M2.6
最大離陸重量35,000kg
航続距離4,000km
生産数1機